『照柿』を読了

mori05022009-04-27

思いがけない時間ができたので昨日は『照柿』の下巻を一気に通読。登場人物の誰もがそれぞれの思惑と次第にずれていくなかでもう運命としかいいようのない不可抗力の力に抗えず悲劇的な結末を迎えてしまった。読了感は重く、救いがたい。真夏の熱気が否応なく意識に膜をかけていく中で刑事の合田と幼馴染の野田は交わり、また離れていく。

小説のなかの1週間があまりに濃密なので、日曜の午後と夜にわけて読んだ僕も1週間ほど、部屋にこもって本を読んでいたような気がした。

文庫本の解説をスタニスワフ・レムナボコフの翻訳をしている沼野充義ドストエフスキーの著作を引用するように書いているのもうなずける。絶望的なロシアの寒さと意思の力を奪う日本の夏の暑さが近似なところにあることを実感。

桐野夏生の往く荒野とはまた違うのだが高村薫ひとつの小説で世界を作りあげている。真の意味でヘビーメタルな作品だ。

照柿

照柿