「残虐記」を読む

mori05022008-04-03

桐野夏生の「残虐記」を読了。

いわゆる少女誘拐監禁を素材にした作品なのだが、現実の事件では被害者はこの作品よりもっと辛く恐ろしい目にあったに違いないし、桐野夏生もその状況についてはそれほど克明な描写はしていない。それよりも事件の背景、犯人が犯行に及んだ成り立ちの方がおそろしい。さらに事件を起訴する検事が普通人を装いながら、相応の闇を抱えている。作品の中の人物が語ることもどこまでが本当で、どこまでが虚構なのか気にし始めるとまったく際限がない。

桐野夏生の作品を読むといつも底なしの底を覗き込んだような気がしてならない。底なしの底には何もないはずなのに、なにやら蠢くものがあって恐ろしい気持ちになる。人間のもつ希望とか可能性とは真逆の絶望の黒より暗い色に取り囲まれそうで足下を確かめたくなる。

物語の導入部はいたって静かで、よくある小説のようでもあるのだが、読みすすめている間に、僕はまったく気がつかないまま絶望の深淵に足をとられてしまっている。

「グロテスク」や「OUT」「柔らかな頬」もそうだった。小説家として図抜けた才能がここにある。小手先の表現力ではなく想像する力のエネルギー量が圧倒的なのだ。

残虐記 (新潮文庫)

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